Asai-ryo builder Inc.
#Vol,02

リノベーション
~浅井良工務店 社員の場合~

アウトドアリビングで庭と、人と、つながる暮らしを

  • #古民家リノベ

古いものを受け継ぎ ていねいに暮らす
旅先で見た人、街、風景を原点に

旅が好きで自然が好きで、人との出会いにワクワクする。共通項の多いご主人と奥さまは、郊外にあるご両親の家を譲り受け、新婚生活をスタートした。
200坪の土地に、2階建ての母屋とご両親が増築した平屋が建つ実家。母屋にはリビングとダイニングキッチン、浴室が、平屋部分にはかつての自身の寝室、父親が経営していた設計事務所があった。子ども時代を過ごした愛着ある家ではあったが、1日の多くを過ごす母屋は木造土壁で断熱性が低く、冬は体の芯から冷える。
寝室が離れにあったため、生活動線も悪い。リビングとダイニングは壁で仕切られ、食べることや会話が好きなお二人が描くライフスタイルとはかけ離れていた。

1年住んでみて、お二人はリノベーションを考え始める。一から建て直すこともできたが、ご主人にはリノベーションへの強い思いがあった。原点は20代で経験した放浪の旅。バッグパック一つで2年間、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、メキシコなど世界中を旅した。
旅先で人と触れ合い、それぞれの国や地域の文化に触れた。なかでも印象に残ったのは、古い家を壊すのではなく改修し、工夫しながら住み続ける人々の姿と、その暮らしが生み出す趣ある街並み。リノベーションの素晴らしさに感銘すると同時に、自らの生き方、暮らし方についても考えた。旅は思い出であるだけでなく、今もご主人の人生観を形づくるベースとなっている。

足りないなら足せばいい
そこから、新たな価値が生まれる

浅井良工務店のスタッフとして、お客様の想いを叶えるお手伝いをしてきたご主人は自ら、暮らしを平屋のみで完結させる間取りを描いた。
2階建ての母屋はそのまま残し、平屋部分に絞ってリノベーションを施すプランだ。元設計事務所だったスペースを丸ごとLDKとしたのは、家族の時間をゆったり楽しめる空間をつくりたかったから。
リビングは、対面式のダイニングキッチンと一体化させたので料理中も会話は途切れない。LDKからパントリーや浴室などの水回り、さらに奥に進んで寝室、トイレが平屋部分に集結し、生活空間がコンパクトにまとまった。動線がよくなったことで、家族の時間にゆとりが生まれた。

父親が設計した実家には、造作の建具も残っている。たとえば、上下の建具を上げ下げすることで、さまざまな使い方が可能な2枚仕立ての建具。上部がガラスになっているため、完全に締め切った状態でも光を取り込むことができる。上下を少しずつ開けておけば、風の通り道をつくることもできる。採光と通風を兼ね備えたこの建具を、パントリーと寝室に残して利用した。寝室や廊下の窓は、二重サッシに。壁の吹付断熱によって部屋ごとの温度差も少なくなった。

毎日の食事をいただくダイニングテーブルには、知人から譲り受けた古い座卓(木株)の天板を再利用した。キッチンカウンターは無垢の桜の原木を合わせ、自然な趣に。手元にあるいい物を残し、活用することで、独特の風合いある空間をつくることができるのも、リノベーションの醍醐味である。
どんな家であっても、足りないものを補い、手をかけることで自分たちにフィットする暮らしをつくることができるのだろう。

友人と共に愉しむ
自分たち流のおもてなし

自分たちはどんな暮らしがしたいのか。リノベーションに取りかかる前に、何度も話し合ってたどり着いたのは「人と、庭とつながる家」だった。
そこでご主人は、リビングの北側に土間を設けることにした。庭とリビングを結ぶこの空間を「アウトドアリビング」として使っている。
土間の床には無垢の杉板を敷き詰め、大きめのシンクを設置。土間の開口部は、別の家の解体の際に譲り受けたガラス戸を再利用した。以前から欲しかった薪ストーブも置いた。この薪ストーブは信州在住のイエルカさんの作品で、二人で現地まで会いに行き購入したこだわりのアイテムである。

庭の一部で家庭菜園をしているご主人。子どもの頃、祖父の田んぼや畑を手伝ったことがあり、今も畑仕事は好きなことの一つである。友人を招いたら、みんなでピザ作り。野菜を収穫して土間に持ち込み、思い思いの具材でトッピング。薪ストーブに入れたら、石窯焼きのピザが完成だ。

パントリーには、江戸時代から続く伊賀焼の窯元『長谷園』の土鍋が並ぶ。伊賀に出かけて買い集めたもので、暮らしを彩るアイテムの一つになっている。
ただ料理を振る舞うだけではなく、庭とつながる暮らしの良さも一緒に味わってもらうのが、お二人流のおもてなし。『長谷園』のコンセプトである「食卓は遊びの広場だ」を取り入れ、毎日の暮らしを愉しんでいる。

完成形はない
人も暮らしも変わってゆくから

そんなお二人の暮らしに、新しい家族が加わった。以前から飼いたいと思っていた黒柴の女の子。まだ一歳にならないこむぎちゃんは、庭から土間へ、リビングへ、廊下を抜けて再び庭へと、リノベーションされた家を元気に駆け回る。
こむぎちゃんと一緒に過ごす家族DANRANのひとときを、より心豊かな時間にしてくれるのがホームシアター。当初は庭に背を向けて座る形だったが、庭もこむぎちゃんも一緒に眺められるようにとスクリーンを反対側に移動させた。

ご主人はリノベーションを、「“家”ではなく“暮らし”をつくること」だという。どんな暮らしがしたいのか、家族の時間がどんなふうであればうれしいのか、人によって答えはちがう。建てられた年代、構造、大きさ、立地条件によって、できることとできないこともあるだろう。古い建物には趣がある半面、耐震性能や断熱性の懸念が生じる。その家が持つポテンシャルや立地条件を最大限に活かして、家族の思いに合わせて改修していくことが大事なのだと。

暮らしをつくるためのリノベーション。アウトドアリビングでの時間。人とのつながり、庭とのつながり。家庭菜園を愉しむ郊外の暮らし。今は、奥さまとこむぎちゃんとのお散歩も大切なものの一つだ。毎日、お散歩に出るとご近所の方に会う。お天気のこと、犬のこと。何気ない会話に心が和む。知り合いになった犬友達が、土間に寝転ぶこむぎちゃんに門の向こうから声をかけてくれることもある。

やりたかったことの多くは実現できたが、「完成形はない」と話すご主人。次はレンガを積んで燻製器をつくり、自家製ベーコンに挑戦しようと計画中だ。ドアの枠にあしらった端材、トイレの天井に貼り付けた色とりどりの壁紙サンプル。薪ストーブの床にはセメントレンガを敷き詰め、木を挟み込むなど、遊び心が散りばめられたお二人の住まい。時間とともに気持ちも変化していくだろう。秋になると庭の金木犀が色づき、甘い香りが辺りを包み込むように。ある日、その金木犀に鳩が巣をつくっているのを見た。雛がいつか巣立ちの日を迎えるように、人も家も犬も、何もかも留まりはしない。その変化をこれからも愉しみたいと思っている。

物件概要

  • 建築種別
    木造平屋建て
  • 建築面積
    85.74㎡(25.94坪)
  • 敷地面積
    663㎡(200坪)
  • 家族構成
    ご夫婦2人+愛犬
  • 立地
    和歌山県和歌山市